生々しさ、を感じるアート作品が集う展覧会
──まずはお二人の作品をご覧になるのが初めての方もいらっしゃると思いますので、それぞれ自己紹介をお願いできますか?
松永直(以下、松永):中学生の頃に渡英し、現在はロンドンをベースに活動しています。日本ではマジョリティだったけど、ロンドンではマイノリティになって。でも、移民が多く「Everybody is different.」という考えが定着しているロンドンは、僕にとっては住みやすい街だと思っています。作品は粘土を使った陶芸や木彫、ペインティングなどで制作しており、今回は木彫りのお面を出品しています。
ピーター・マクドナルド(以下、マクドナルド):僕もロンドンを拠点に活動しています。母が日本人で父がイギリス人で、東京で生まれて8歳でロンドンに行きました。その後は行ったり来たりしていますが、基本はロンドンです。自分の中で、どこが日本人でどこがイギリス人なのかっていうのは、永遠の疑問。頭の中のクエスチョンマークは一生続くものだと思っています。大学時代は彫刻の勉強をしていたのですが、大学院に進むときに絵を描き始め、現在はほとんどがペインティングの作品になります。スタジオでは毎日スケッチブックやA4くらいの紙に絵を描いていて、その時によって4メートル程の大きなキャンバスに描くときもあるし、壁画のような巨大な作品に取り組むこともあります。今回は、毎日描いている小さなサイズの絵からキュレーターと一緒に選んだものを展示しています。
──今回の展覧会は、アウトサイダーアートと現代アートの境界をなくし、同じ空間にさまざまな作家の作品が並列に展示されるというコンセプトですが、この展覧会のお話を聞いたときどう思われたのか教えていただけますか?
松永:すごく面白い試みだと思いました。もともとアウトサイダーアートには興味があって。アウトサイダーっていうよりは、プリミティブアート(原始美術)やケイヴアートに興味があり、そういうものからかなりインスピレーションを得ています。プリミティブアートの好きなところは、同じ時代に中国やフランス、日本など違う場所で作られていて、使用している素材も違うんですがどことなく似ていること。そういうのをアーキタイプって言うんですが、人間の根源的な部分が表れているんですよね。アウトサイダーアートにも、同じような空気を感じます。自分の創作活動の中で、そういうプリミティブな部分を取り入れることはしてきましたが、一緒に展示をするような機会はいままでなかったので、話を聞いて率直に嬉しかったですね。
マクドナルド:僕もアウトサイダーアートは好きで、展覧会があったら観には行っていました。でも、アウトサイダーアートと現代アートを一緒に見せるという展示自体は見たことがない。なぜそういう枠があるのか。きっと見えない境界みたいなものがあるのだと思います。この展覧会では、ひとつの空間の中に境界なく作品が展示されている。それはすごく面白い試みで、その中に自分の作品を入れてもらえたのは、嬉しいことですね。
──展覧会に出品するにあたって、意識されたことを教えてください。マクドナルドさんは、頭が大きな人の絵を描かれていますが、いろいろな想像が浮かびます。大きな頭は現代人を写すアイロニーのようにも感じられる。見る人によって多様な考え方ができる絵だと思いました。いつ頃からそのモチーフを描かれているのですか?
マクドナルド: 2002年くらい。ふと人物を描きたいと思って、最初はレコードジャケットや雑誌の表紙、写真を見て描いていたんです。でも、何人描いてもなんだか納得ができなくて。人間を描いているのに、その人間が写真の世界に閉じこめられてしまっていて、逃げ出せなくなっているような気持ちになってしまって。でも、疑問を持ちながらも何年も描き続けていて。ある日、アフロヘアのファンクシンガーの絵を描いた時に、これだと思ったんです。その絵は、白人と黒人二人のアフロヘアのシンガーが舞台に立っていて、ひとつは白い頭、もうひとつは黒い頭でオーバーラップしている部分がグレーになっている。すごく単純なことなんだけど、二人の人間の関係性を言葉で表さなくても表現できた。そこから、頭の中が透けて見えるような奥行き感に表現が広がっていきました。
──先に頭で考えて作品を作るのではなく、毎日絵を描くというスタディを繰り返しているなかで、偶発的に生まれてきたモチーフなのでしょうか。
マクドナルド:僕がこうしたらいいと思って描いたものではなく、絵を描くというプロセスから出てきた言語。後から考えて、もしかしてこれは面白いかもと思い、そのロジックを探っていったらどんどん可能性が見えてきて、今はそのまま世界が広がっているようなイメージです。
──松永さんは仮面の作品を展示されていますが、このシリーズに取り組まれたのはいつ頃からですか?
松永:5年くらい前ですかね。もともと「ピュア・アブストラクション」(純粋な抽象彫刻)な作品を陶芸や木工で取り組んでいました。そこにお面のようなものをつけたら、それが人のかたちやネコのかたちに見えたりしたのです。人間の目って面白いですよね。山を眺めたときに竜の頭に見えたり、巨人に見えたり。そうした人の目の使い方が好きで、木彫でいろいろなかたちをいっぱいつくっていた中から展示しています。
頭だけで考えない、体で感じる作品
──この展覧会は観ていて、体で感じる作品が多いという印象でした。現代アートというとコンセプトを聞いて読み解くようなものもありますが、それとは対照的で体にぞわぞわとくるというか。マクドナルドさんのお話にもありましたが、作品制作をされる際の身体性についてお2人にお聞きしたいのですが。
松永:身体性については、すごくよく考えていますし意識しています。言葉で説明されなくてもガツンとくる作品が好きですし、そういうものを作りたいと思っています。ピーターもそうでしょうけど、イギリスの美術の学校ってすごくコンセプチュアルアートが強かった。もちろんいい作品もいっぱいあるんですが、多くの人がコンセプトありきの作品を作るなかで、僕としてはそうじゃない方向に行きたかったのはあります。もうひとつ、僕が作品づくりをする上で大事にしているのは、目の前にある素材に対してどうリアクションできるか。例えば、今回展示したお面は木材を割って作るんですが、割ってみるとそこにしかないかたちが現れる。それにリアクションするようにまた次のアクションをする。それを繰り返すことで作品をつくっています。昔は、頭じゃなくて手でものを起こすことに意識的でしたが、最近は手すらあまり使わずに勝手に作品ができていくような、そんなイメージです(笑)。だから、自分の中から流れて出てくるような時じゃないといいものができない。そういうタイミングの持っていき方と集中力を研ぎ澄ます。すると、作品は自ずとできてくるのだと思います。
マクドナルド:その感じ、すごくよくわかる。瞑想みたいな感じで、どんどん絵に入っていけると、何をやってもミステイクが起こらない時もある。その代わり、何をやってもダメな時もある(笑)。
松永:ピーターの絵は説明を聞かなくてもわかる。僕らは、“言葉”を越えたいと思いながら作品を作っているから、コンセプトやアイデアという“言葉”から始まった作品はしょせん言葉を越えられないのだと思います。
マクドナルド:今回展示されている作品は、モノ自体に感情移入できる部分がある。紙をすごく細く切った藤岡祐機さんの作品や、葉っぱで動物を作った渡邉義紘さんの作品もすごかった。全部の作品が、なんていうのかな。わざとらしいアイデアのインテリジェンスじゃなくて、モノから出てくるインテリジェンスを体に消化して自分の表現になっている。だから見ていて全然飽きないし、深く、面白く感じるのかなと。
松永:ものの形がちょっと違うとか線の引き方や色の塗り方で、そこまで伝わってしまうのってすごいなと改めて思わされました。僕はアートのそういうところが好きで、そこにすごい可能性があるなと思います。また、どの作品が現代アーティストで、どれがアウトサイダーアーティストなのかなんて考えずに作品単体で楽しめる、すごくレベルの高い展示だと思いました。
Information
日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展
ミュージアム・オブ・トゥギャザー
- 会期:2017年10月13日(金)〜31日(火)
- 開館時間:11:00〜20:00(10/13は18:00まで)/会期中無休
- 会場:スパイラルガーデン(東京都港区南青山5-6-23 スパイラル1F)
- アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道駅」B1出口前もしくB3出口より渋谷方向へ1分。※B3出口にエレベーター・エスカレーターがあります。
- 入場料:無料
- 主催:日本財団
- 制作:一般財団法人日本財団DIVERSITY IN THE ARTS
- 監修:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
- 参加作家:青山悟、占部史人、Emi(エミ)、川内理香子、クリスチャン・ヒダカ、小松和子、清水千秋、清水ちる、土屋信子、土屋正彦、寺口さやか、ピーター・マクドナルド、藤岡祐機、古谷秀男、堀江佳世、松永直、水内正隆、みずのき絵画教室、森雅樹、八島孝一、竜之介、渡邊義紘、香取慎吾